江戸時代から脈々と続く
一関・平泉地方の「もち食文化」
岩手県の一関・平泉は、伊達藩から伝わったもち食文化が受け継がれている地域。季節の行事や人生の節目など、ハレの日にはもちが食べられてきました。また、もちに関する儀礼や言い伝えも多く残されています。この食文化は、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食」のひとつに認定。さらに農林水産省が認定する「食と農の景勝地」にも、全国で初めて選ばれました。
じゅうね
東北ではエゴマのことを「じゅうね」、「じゅうねん」という。
ふすべ
かつては囲炉裏でいぶしたドジョウを使用したことから、いぶすという意味の「ふすべ」の名に。近年では、ドジョウの代わりに鶏ひき肉を使うのが一般的。すりおろしたゴボウや大根、唐辛子なども加える。
しょうが
しょうがのおろし汁やシイタケを入れ、とろみをつけた醤油あん。
ずんだ
枝豆をすりつぶしたもの。「豆打(ずだ)」が名の由来という説も。
食事にも、おやつにも!
一関・平泉のもちは多彩
一関・平泉に伝わるもち料理は、約300種類にものぼります。あんこやずんだなどの甘いお菓子もちだけでなく、エビやネギ、シイタケなどを使った惣菜もちもバラエティ豊かです。昔から食べられている伝統のもち料理に加えて、最近では洋風の食材などを使った創作もちも登場しています。
雑煮
大根、ゴボウ、人参の引き菜(千切り)のほか、おめでたい席の雑煮には鶏肉も入れる。だしに使うのは干したハゼやアカハラ、または鶏の骨など。不祝儀の場合は、昆布だしにするところもある。
かぼちゃ
かぼちゃをつぶしてペースト状にし、甘いあんに。おやつにも◎。
沼えび
一関・平泉の伝統食材。えびを丸ごと炒って、もちと合わせる。えびもちは紅白で縁起がいいため、おめでたい席で食べられることが多い。
くるみ
味付けは塩、醬油、砂糖。醬油の代わりに味噌を使う家庭もある。
小豆(あんこ)
ごま
きなこ
納豆
ねぎもち
よもぎ(草もち)
豆腐
きのこおろし
わさびもち
かくせらもち
もちを食べるのは、
年間60回以上!
春夏秋冬の暮らしにもちが密着
一関・平泉には「もち暦」があるほど、もちと生活が密着しています。この暦によると、もちを食べるのは年間60回以上。年中行事や人生の節目など、事あるごとにもちをつきます。もちは当地方の人々にとって、家族の愛情やつながりを深めるもの。また、客人へのおもてなしの心を形にしたものでもあるのです。
正月行事 [ 1/1〜1/3 ]
鏡もち、お供えもち
年末についたもちを焼き、アメもちにして(温めた麦芽アメにもちを入れ、きなこをかける)食べるところもある。
七草 [ 1/7 ]
お粥もち
細く刻んだ七草入りのお粥を作り、もちを入れて食べる。七草粥を食べると、一年間病気をしないといわれている。
農始め [ 1/11 ]
ふくとりもち
農作業の仕事始めの行事。この日は神棚から下げたお供えもちや、ふくとりもち(きなこもち)を食べる。
こと始め [ 2/8 ]
八日団子
田の神様が地上にお下がりになる日。杵の音を立て、神様を迎える。「こと始め」ともいわれ、農事・祭事の始めを表す。「こと納め」は12/8。
桃の節句 [ 3/3 ]
よもぎもち
神様に感謝し、休息する日。よもぎもち(草もち)、菱もち、甘酒をひな壇に供えたあとに、それらを食べる。
春彼岸 [ 3/18〜24 ]
牡丹餅(ぼたもち)
先祖を供養する日。入日の18日には、赤飯や彼岸団子を仏前に供える。中日の21日には朝にもちをつき、ぼたもちや雑煮もちを祖先に供える。
お釈迦様の誕生日 [ 4/8 ]
よもぎもち、小豆もち
釈迦牟尼仏の誕生日を祝う行事を「花祭り」といい、団子を作って墓参りをする。よもぎもちや小豆もちを作り、甘茶を煎じる。
菖蒲湯 [ 5/4 ]
よもぎもち
菖蒲とよもぎを軒に差し、悪魔よけにする。菖蒲を入れた風呂で心身のけがれや病気をはらい、よもぎもちをついて食べる。
端午の節句 [ 5/5 ]
かしわもち
男の子の成長と健康を祝う日。かしわもち、草もち、あんこもち、白もち、ごまもち、豆腐もちなどを食べる。
ムケの朔日 [ 6/1 ]
歯がためもち
一年の後半の初めを祝い、もちをついて大根おろしで食べる。また歯の健康を願う意味から、「歯がためもち」として硬いもちを食べる。
お盆行事 [ 7/13〜 ]
土産もち
13日に盆棚を作り、先祖を迎える。15日の夕方にはずんだもち、くるみもちなどの他、白い器に5個並べた「土産もち(お帰りもち)」を仏前に供える。
八朔の朔日 [ 8/1 ]
八朔の苦餅(ぼたもち)
農家では豊作を祈り、新しい稲穂からとった米2、3粒を小豆御飯に入れ、氏神様や作神様に供える。ぼたもち、あんこもち、納豆もちを食べる。
お明月様 [ 8/15 ]
月見だんご
仲秋の名月に、もちときな粉で作っただんごを食べる。さらに小豆もちやずんだもち、納豆もちなども作る。
菊の節句 [ 9/9、19、29 ]
九日もち
9月9日は菊の節句であり、神の日ともいわれる。19日の武士の日、29日の百姓の日と合わせて「ミクニチ」といい、もちを供える。
お刈り上げの朔日 [ 10/1 ]
お刈り上げもち
稲刈りが終わり、豊作を感謝する日。新穀を天地神に供え、もちをついて祝う。このもちを「お刈り上げもち」という。
いっぺぁ餅 [ 11/11 ]
いっぺぁ餅
一年中の病気を避けるために、1人2合5勺のもちを残さず食べる。たとえ来客があっても、そのもちは食べさせない。
お大師様のお年越し [ 11/24 ]
果報だんご、果報もち
お大師様(弘法大師)にお供えをする日。萩の小枝を入れた果報だんごや果報もちを食べる。
果報だんご、果報もちとは…
岩手県南に伝わる郷土食。いくつかのだんごに萩の小枝を入れておき、それが当たった人には幸せが訪れるといわれる。地域によってはだんごではなく、もちの場合もある。
川上がりもち [ 12/1 ]
川上がりもち
川魚獲りが11月で終わり、12月1日に川を上がることから「川上がりもち」をつく。
すす払い [ 12/27 ]
すすはきもち
一年間のごみやほこりを払う。保存していたよもぎで草もちを作り、供える。
もちつき [ 12/28 ]
めえだまならす
お正月用のもちつきをする。最後についたもちで、みずの木の枝に繭玉(めえだま)をならす。
お年越し [ 12/31 ]
お供えもち
正月の準備を済ませ、一年を締めくくる。新しく迎える神々に御神酒、お供えもち、御馳走などを供える。
あらたまった席での儀礼食
「もち本膳」
冠婚葬祭などのあらたまった席で、儀礼食として供されるのが「もち本膳」。この地方独特の儀式として、作法や食べ方にも決まりがあります。もち本膳は元来、武家の年中行事で食べられていたもの。武家社会に伝わる礼儀作法の「小笠原流」と、料理の家元「四条流」の流れをくんだものといわれています。
一関もち食推進会議
会長 佐藤晄僖さん
「おとりもち」とは?
もち本膳は、「おとりもち」と呼ばれる進行役の指示に従っていただきます。
おとりもち役が口上を述べる。
最初になます(大根おろし)を、ひと口いただく。
もちは「あんこもち→料理もち(変わりもち)→雑煮もち」の順に。次のもちをいただく前に、なますで口の中をさっぱりさせる。
あんこもちと雑煮もちはお替わり自由だが、原則として料理もちはお替わりなし。最後に食べるもちは、雑煮もちにする。
たくあんは好きな時に食べてよいが、必ずひと切れ残しておく。
もちを食べ終えたらお椀にお湯(膳の湯)を注ぎ、たくあんでお椀をぬぐってきれいにする。最後に、たくあんとお湯をいただく。
一関・平泉のもち食文化を体感するなら、世嬉の一酒造の「蔵元レストラン せきのいち」へ。
この地方の伝統や文化を体験できるメニューやイベントを用意しています。
果報もち体験
「果報もち」の名の由来は、弘法大師にお供えしていた「果報だんご」。昔は果報団子の中に萩の小枝を入れておき、それが当たった人には幸運が訪れると伝えられていました。この風習から、果報もちも縁起のいいものとして親しまれるように。当レストランでも味わうことができます。